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2.家の中のおうち

ほのちゃんは、小さな女の子です。もうすぐ三歳になります。欲しいものがひとつ出来ました。おもちゃ屋さんでみた子供用の、小さなテントです。 子供が2人はいればもうぎゅうぎゅうです。壁の部分はピンク色で、三角屋根の部分は紺色で、いろんな大きさの星がかいてあって、まるで夜空のようです。 てっぺんには小さな旗もついています。旗には太陽のマークがかいてあります。 お父さんとお母さんが相談をして、ある日、やっとそのテントがほのちゃんの家にやってきました。ほのちゃんは大喜びで、ずっとテントの中で遊びました。 ほのちゃんのおうちはここですよ。ママは入っちゃいけません。ごはんもここで食べますよ、ちゃんともってきてください。ほのちゃんのおうちはここですからね。 偉そうにほのちゃんは言うのです。テントから出るとお家の中がお外になりました。台所まで散歩して、洗面所で水遊び、テーブルの下は公園です。とたんに、いつものお家が特別楽しくなりました。テントの中でお昼寝だってしました。 夕方になって、お母さんとほのちゃんはお買い物に出かけました。手をつないで外に出ると、お隣のおうちから、甘い醤油の匂いがします。空は夕暮れのオレンジ色で、西っかわは、もう藍色の夜が出番をまっています。 家の前の道を左に曲がると、細くて長い階段があって、それを下るとスーパーがあります。階段の上にたつと、さあっと視界が広がり、眼下にお家が沢山見えてきます。 ほのちゃんは小さな手に、ぎゅっと力をこめてお母さんの手を握りました。 おかあさん、ここはだれのおうちのなかなの? お母さんは、またいつものように不思議なことを言うわねえ、と思って、そうねえ誰のおうちかなあ、と、ごまかしました。 見上げると、もう藍色の空が広がって、星がキラキラ見えました。きっとあのてっぺんには太陽の旗が付いてるの。とほのちゃんは思いましたが、お母さんに言うのはやめました。それで、覚えたての歌をでたらめに歌いながら、スーパーへと急ぎました。 作 たみお

Short Story
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