3.青い傘

僕は雨の軒先で、主人の帰りをまつ、犬であります。 けむる雨の向こうに、ご主人が見えます。 もうじき僕のところにやってきます。 僕は吠えもせず、ただじっとご主人を見つめます。 あの青い傘は、主人が奥様の誕生日に買った傘。 夏の日の空のように、強く、明るい青は、雨に似合わぬけれど、 奥様はとても気に入ってらっしゃいました。 もう今は、ご主人のものです。 ご主人がやってきました。手を差し出されて、僕は素直にその手をなめます。 ご主人、静かに微笑みます。少し安心したようです。 大丈夫、僕はちゃんと待ってましたよ。 青い傘に僕は入ります。 傘の下は、青空。 僕はぴったり身をよせて、ご主人の隣を歩きます。 奥様、大丈夫。ご主人も僕も、雨にぬれやしませんよ。いつだって青空の下ですよ。 空に向かって、おもわずくうくう鳴いたらば、「大丈夫だ」とご主人答えてくれました。 ゆっくり、ゆっくり、僕らは家に帰ります。 まだ家のあちこちに奥様の匂いがするけれど、それがわかるのは僕が犬だからでしょうか。 晴れの日も、風の日も、玄関にたてかけられたままの青い傘。 僕の知る限り、ご主人は一度も、しまうことはありませんでした。 作たみお

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